小説の読み方
- 作者: 阿部和重
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/01/17
- メディア: 文庫
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- 作者: 阿部和重
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/06/28
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九十七年の僕によれば、この小説は、転移的で神経症的な世界からの脱出を主題としている。それに対して今の僕によれば、この小説は、多重人格的で分裂した世界の制御を問題としている。…僕は今、思想系の仕事の方で、分身と鏡像段階、多重人格の関係について考えていて…この解説もまた、「IP」にその問題意識を過剰にprojectして書かれたもののような気もする。…生きている作家を知っているということ、それも親しく知っているということ、それは読者とテクストの関係を極めて不安定なものにしてしまう。
ここから僕が読み取るのは、東が小説を読む際に、現実の「阿部和重」を前提としているということ、また、そうせざるをえないと考えているということであり、そして、明確な主題=作者の意図ありきの読み方をしているということである。そこまで考えて、何故僕がこの小説を面白いと思えなかったかがわかったような気がする。それは、東の読みの「正しさ」に裏付けられる。東の読みが正しければ、この「IP」という小説は全編通じて、明確な主題=作者の意図に貫かれており、それを超えたものは存在しない。まさにそのことによって、読者の読みは制限されてしまう。僕はそのようなものを「小説」だとは思わない。少なくとも、「小説」としては魅力を感じることが出来ないのだ。