超越の欲望に対する萎縮
- 作者: 加藤典洋
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2004/01/17
- メディア: 単行本
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…そんなうぶな危なっかしい、稚拙な物語では、ダメだよ、すぐに夢が潰えさるよ、と言うのではなく、それはうぶで危なっかしい、稚拙な理想の物語だけれど、行きなさい、でも気をつけてね、と言うのです。
理想と言うのはいつもそういう、素朴で稚拙なものだけれど、それが人を否定的なものへと突き進ませると同時に、人を否定的なものから救い出すものでもあります。人を超越的なものへの没入によって狭い見方しかできなくなることから救うのは、超越的なものからの遠ざかりではなくて、別の形で超越的なものとの回路を作り出すことなのでしょう。
オウム真理教による、地下鉄サリン事件によって日本の現代文学が負った「一大骨折」について、それがもっとも顕著だったよしもとばななの作品を例に論じた文章の一節。去年宗教、特にオウム関連の本をまとめて読む機会があったぼくにはとても興味深い。また詳しくは触れられていないけど、「超常現象と宗教という現世のかなたへの超越」をタテの超越とするなら、それに対して「現実や日常を否定しない超越」であるヨコの超越、「横超」という考えを吉本隆明は提示しているそうだ。